無知と無能の間に

無知無能者、固人之所不免也

憧れの巨大構造物

宇宙エレベータ協会

宇宙エレベータ協会なるものを知る。宇宙エレベータの実現に向けて、クライマーコンテストを行っている。気球につなげたロープの上をクライマーと呼ばれるもので登らせて、その技術を競うというものだ。

これだけであれば、ロボットコンテストのように工学系のコンテストイベントのようで微笑ましいかぎりだ。しかし、実際に宇宙エレベータが実現できるかどうかというと、このようなクライマーコンテストをやる前に、駄目だろうという気がしてくる。

宇宙エレベータとは

話が前後するが、宇宙エレベータ(または軌道エレベータ)とは、静止軌道に宇宙ステーションを置き、その両端へケーブルをバランスを取りながら伸ばしていくことで方端を地球の地表面に、もう方端は地球から7万〜10万キロメートル先まで伸ばしていくというもの。移動は、このケーブルを這うように、クライマーと呼ばれる乗り物を走らせることで行なう。いわば、宇宙版の鉄道というイメージか。

実際には、7万〜10万キロメートルというケーブルを張れる強度を持つ材料がなかったが、最近、カーボンナノチューブ等がでてきて、にわかに宇宙エレベータが注目されるようになった。

宇宙エレベータは実現可能か

一つ思考実験をしてみる。Wikipediaの記述によると、紙程度の厚さ0.1mm、幅1m、長さ1km の重量は3.7kg。長さ10万km では370トン。大林組が試算した実用的な運用に耐えうるケーブルの質量は、7000トンとなるという(Wikipedia:軌道エレベータ参照)。となると、7000トンの原材料を静止軌道に投入しなければならないことになる。

現在のロケットで静止軌道に投入できる物体の質量は約5トン程度、まるまる5トンの資材を建設ステーションに送るためだけでも1200回、ロケットの打ち上げが必要になる。実際には静止軌道のステーションやナノチューブの製造装置、人員、それらを維持する消耗品が必要となり、さらにロケット打ち上げ回数が必要となる。

いずれにせよ、宇宙エレベータを実現するためには最低でも数千回のロケットを打ち上げる必要がある。宇宙エレベータの建設を主張する側が論拠とする「ロケット輸送の高コストである」という主張は、それ自身が宇宙エレベーターの建設コストは高コストであるという背反したものになる。

もちろん、一度建設してしまえば低コストの宇宙往還ができるだろう。極めて細いケーブルでも地上とつながれば、数十キロ〜数トン程度の軽量のクライマーを使って原料を宇宙に運べるとも考えられる。であれば、打ち上げ回数は数百回レベルにまで下げることができるのかもしれない。

また実際にケーブルの寿命と張替え期間を見積もらなければならない。極端に寿命が短ければ、宇宙エレベータでの往還のペイロードはほとんどケーブル張替えのための資材を運ぶことになりかねない。

そしてなにより、それだけ数のロケットを打ち上げるためには現在より低コストのロケットが必要であり、また打ち上げ回数の需要が生まれれば低コスト化に向かうだろう。低コストのロケットで宇宙に行くコストが下がれば宇宙エレベータを建設せずとも宇宙往還の機会は多くの人に与えられることになる。

実用的なコストで航空機輸送ができる現在、東京とロサンゼルスの間に橋をかけようとする考えは一笑に付される。宇宙エレベータが同様の反論を回避するには、あまりにも検討が不足している。