無知と無能の間に

無知無能者、固人之所不免也

共和党はもう大統領選挙に勝てないかもしれないという話

アメリカ大統領選挙の予備選で、ドナルド・トランプ氏が注目を浴びている。前回の選挙があまり話題にならなかったなと思っていたら、「メキシコ移民を強制送還」とかいう人物にわざと脚光を浴びせることで、選挙を盛り上げようとしているのかと邪推をしたくなる状況だ。トランプ氏が炎上発言するほど、排他的な高齢で低学歴の白人の支持を集める状況になる。ほとんどジョークとしか言えない状況だが、どうやらこの状況は、アメリカの大きな地殻変動が起きていることの一つの現れのようだ。

2015年2月にある書籍がアメリカで発刊され、話題となった。そのタイトルは、「2016 and Beyond: How Republicans Can Elect a President in the New America」。日本語訳にすると「2016年以後、どうすれば共和党は新しいアメリカでの大統領選挙に勝つことができるか」とでもなるだろう。逆に言えば「もう、現状を変えない限り共和党はアメリカ大統領選挙で勝てない」という内容だ。しかもこの本を書いたのは当の共和党のコンサルタントであるNorth Star Opinion Researchの研究員だということだ。

アメリカの国勢調査によれば、現在白人系はアメリカ全人口の62%を占めるが、2060年には44%まで減る。一方でヒスパニック系は2060年には現在の倍の30%まで増えると予想されている。1976年に全有権者のうち白人系は88%を占めていたが、2012年は72%まで低下、2016年には69%にまで落ちる計算になる。「であれば、非白人の75%を獲得するだけで民主党大統領選挙に勝てる」と主張する。

一方、共和党最後の大統領だったジョージ・W・ブッシュは、スペイン語で演説も行うなど、非白人系の票の取り込みを図った。それでも非白人系の26%の票しか獲得できなかった(それでもこれまでの共和党の大統領候補で最大)。

2015年11月の世論調査で、トランプ氏についで支持率2位のベン・カーソン上院議員はアフリカ系の子孫。3位のマルコ・アントニオ・ルビオ上院議員はキューバ移民の子。4位のジェフ・ブッシュ元フロリダ州知事も妻がメキシコ人で、カトリックに改宗し、スペイン語も話す。

ところがこういう路線は、共和党支持者の排他的な「超保守の」白人の支持を集めにくい。トランプ氏は最近でも「イスラム教徒の米国入国禁止」を言い出して、強い批判を浴びた。

トランプ氏がなぜ発言を先鋭化できるのかといえば、自分の金だけで選挙ができるから。他の候補者は支持団体から幅広く寄付を募らなければならないため、どうしても総花的な話をしなければならなくなる。

さらにトランプ氏は、共和党の候補を降り、第三の候補として大統領選にでることも選択肢にあるはずだ。共和党としては、トランプ氏が第三の候補として立候補されてしまえば、共和党に集まるはずの票が分裂してしまうため、さらに大統領選挙は難しいものとなる。トランプ氏がマジで共和党候補になる可能性は、想像以上に高いのかもしれない。