無知と無能の間に

無知無能者、固人之所不免也

社労士炎上ブログのビジネスモデル

中小企業に助言を行う立場の社会保険労務士が、会社からの相談に答える形で「社員をうつ病に罹患させて退職する方法」というブログを2015年11月24日に公開し、すぐさま炎上する騒ぎとなった。

現在、ブログは閉鎖されているため、読むことはできない。が、そこはデジタルの大海に一度出されたものは、半永久的に漂うことになる。中身を類推すると、「辞めさせたい社員に対しては、就業規則の網をかける」「これに違反したとして徹底的に反省文を書かせ続ける」「規則違反を根拠に降格減給を実施する」等々の合法的パワハラで対処せよというものだった。最後の一文には、以下のようなことまで書いてあったようだ。

「モンスター社員に精神的打撃与えることが楽しくなりますよ」

12月19日の毎日新聞で、過労死家族の会などが、厚生労働省監督責任を果たすよう求めたと報道。また会のメンバーの「ブログの内容は殺人を勧めるようなもの」いうコメントを掲載した。

Amazonで検索すると、この社労士の著書が20冊以上ピックアップされてくる(共著もある)。氏の本には「首切り」「賃下げ」「正しい解雇」とか、どぎついワードがタイトルに並んでいる。通常のタイトルもあるが、煽ったタイトルが付けられた書籍の出版年を見てみると、2002年から2008年ごろである。小泉改革の頃と不思議と一致する。

話を戻す。Amazonのレビューを見ると、経営者や人事担当者の評価が高いことがうかがえる。彼らが、使えない社員を追い出したいとなるのは、(それが正しいかどうかは別として)自然な成り行きだ。社労士の本来の目的は労務管理を通じた労働環境の向上にある。しかし、諸刃の剣で、制度の穴を見極め、労働者を体よく追い出すノウハウを持っているということにもなる。この一件によって知名度がワンステージ上がった。炎上であったとしても、だ。むしろ仕事の依頼は増えるかもしれない。

ただ、やりすぎたという点はあるだろう。社労士として事実上資格停止に追い込まれるとすれば、だ。書籍として出ているものを少し読んだかぎりでは、ここまで自己主張をオーバーヒートさせる内容はなかった。ブログというのは、編集者の付く著書と違い、誰からも事前に査読されることはない。そのため、情報が正確である必要もないし、事実をねじ曲げてもいいし、他人の文章の引用に気を使う必要もあまりない。自分が基準だからだ。

以前にも引用したが、再び引用する。詩人の荒川洋治はブログを書くことについて以下のように述べていた。

 ブログという自己表現は危険である。ブログは、人に見られている、人に読まれているということを前提に書いている。ブログは自分のことをどんどん書ける。どんどん書ける、たくさんの言葉を使っているということは、逆に「自分が無い」という状態でもある。「自分はあるんだ」「いま、自分のことを書いている」と書き手は思っているかもしれないが、実は希薄だったりする。自分が無いからどんどん書けるといえる。

ブログを書くという行為は、本質的に危ういことなのだ。