無知と無能の間に

無知無能者、固人之所不免也

2016年アメリカ大統領選挙総括、その3〜Trumpに投票した白人層とは?

オバマ大統領はこのラストベルトと呼ばれる地域での獲得票数を積むことで激戦週とよばれるこの地域を制して、大統領の座についた。ところが、民主党支持層である労働組合がもともと強いこの地域で、軒並みクリントン氏は得票数を落とした。結果、トランプ氏がこのラストベルトで選挙人を獲得して、逆転勝利を手にした。

2016年10月のアメリカの全国平均の失業率は4.9%だった。ラストベルトのペンシルバニア州は5.7%、イリノイ州5.5%と全米平均を上回っていた。そして、このラストベルトの失業対策を熱心に取り組んだのは、オバマ大統領である。この労働組合の強いこの地域の工場には、オバマ大統領の肖像を掲げてあるところが数多くあるという。

アメリカ中年白人の死亡率

2015年にノーベル経済学賞を受賞したプリンストン大学のアンガス・ディートンとケースの共著論文「21世紀の非ヒスパニックの白人中年男性の疾病率と死亡率の上昇」が注目を浴びた。

この論文の中で、まず10万人あたりの45〜54歳の死亡率が1990年から2010年までどのように変化したかが示された。以下に、そのグラフ。

f:id:projectdprompt:20161227174518p:plain 出典: Anne Case, Angus Deaton "Rising morbidity and mortality in midlife among white non-Hispanic Americans in the 21st century"

非ヒスパニックの白人アメリカ男性だけ、死亡率がやや上昇していることを示した(図中のUSW)。ヒスパニック系アメリカ白人男性を含めフランス、ドイツなどでの死亡率は劇的に減少しているのにもかかわらずである。そして非ヒスパニックの白人アメリカ男性の死亡率を上げている死因についてが、次のグラフである。

f:id:projectdprompt:20161227174500p:plain 出典: Anne Case, Angus Deaton "Rising morbidity and mortality in midlife among white non-Hispanic Americans in the 21st century"

肺がんによる死亡を抜いて、急増している「薬物中毒死」が1位、「自殺」も増加して3位。4位の慢性肝疾患も増加している(アルコールの過剰摂取が原因だろう)。この3つが非ヒスパニックの白人アメリカ男性だけ死亡率を押し上げている要因なわけで、要するに、うだつのあがらない生活に嫌気がさして、酒やドラッグに溺れ、自殺を選んでいるという状況を表している。

このグラフにはでてこないが、アメリカの同年齢層の黒人男性の死亡率は、白人のそれよりも高い。ただし、こちらは減少傾向を示している。そして同年齢層の白人中年女性も死亡率が減っておらず、45〜54歳の年齢層の死亡率の上昇傾向は「男女の高卒以下の学歴の白人男性と女性」のみにみられたとしている。

先進国の中間層は消えるのか?

アメリカの大学進学率は74%(日本は51%、OECD加盟国平均は62%)で、アメリカ白人の高卒層というのは時間が経過すれば駆逐される存在なわけだ。4年後、8年後には確実にトランプを支持した高卒白人ブルーカーラーは減っていく。

グローバリズムで安い賃金で働く途上国に仕事を奪われる中間層、あるいはマジョリティーであったブルーカラー層が、段々と所得を奪われているという、漠然とした恐怖を抱いいているということだ。で、先進国の仕事を奪った方である、途上国では、その繁栄から取り残された人達が先進国から押し付けられた(と理解している)市場主義やグローバリズムに対する反発がおき、左翼的な政党や政策への支持をする。一方、仕事を奪われる方の先進国の置き去りにされた人達が右翼的、排他的な言説になびくというのは、どういうことだろう。誰か分析してくれないだろうか。

参考