無知と無能の間に

無知無能者、固人之所不免也

金庫を買う人々

日銀がマイナス金利を導入して、金庫が売れているというニュースが流れた。ニュースによると、「マイナス金利の影響」で今後預貯金に手数料が取られる可能性があるからだとしていた。

口さがないネット民の間には「一般預貯金でマイナス金利になることはありえないのだから、典型的な詐欺的商法」のような書き込みがあったりした。

その可能性は無くはないが、外国の金融機関の例だと少額の口座に維持手数料を取るケースがほとんどで、金庫を買っている層はマイナンバーで資産を当局に補足されるのを恐れているからではないのだろうか。

株取引をしている人たちのBlogや掲示板を時々読む。そこで、ニュースや発表を恣意的に都合よく解釈している姿をみると、とても合理的判断をしているようには見えない。合理的判断をしていないが、ある程度の資産蓄積がある。彼らは不合理であるにも関わらず賢いのだ。

ありがとう出来レース

消費税の軽減税率の議論が合意に達したら、しれっと新聞が消費税の軽減税率の対象という報道が唐突にでてきた。さんざん、軽減税率の食料品の議論が紛糾していたにもかかわらず、あっさりと、ほとんど議論もされず、決定事項として伝えられた。安倍首相が定期的に新聞社の取締役や主筆記者たちと食事会を開いているという話はあったが、ここまで露骨に政治取引をするものなのか。

日本新聞協の声明よると、「民主主義を守るため」という言葉が、恥じることなく掲げられている。

新聞社の狙い

では、新聞社各社が軽減税率の導入で新聞離れを食い止められると思っているかといえば、そうではないだろう。2%程度の価格上昇は、消費者にとって大きい。家計見直しで不要不急のものの購入をやめるという動きは、そりゃ、出てくるだろう。しかし、裏から手を回すやり方まで使って軽減税率を認めさせたということは、新聞社が新聞を不要不急のものだと自ら認めたと言っているに等しい行為だ。

ただ、一点注目すべき点は、新聞の軽減税率は、紙媒体だけで、電子版は入っていない。

電子版が軽減税率を除外したことから、軽減税率の狙いは「宅配制度の維持」にあるということだ。例えば新聞各社からでている「電子版」だが、一部の新聞社を除いて「紙媒体」とほぼ同じ価格を設定している。紙印刷、輸送、宅配のコストからみてもどう考えても割高だ。必要以上に高い利益率をとっているといえる。もっと価格を低めに設定すれば売上げ拡大が見込めるにも関わらず、だ。

新聞社本社サイドからすれば、電子化を拡大したいという目論見はある。が、宅配制度をスクラップするつもりもない。建前でもなんでも、弱者の立場の代弁者を取ってきた以上、新聞販売店を一気に切り捨てることはできないということなのだろう。

一方で、読売新聞はプランタン銀座や旧東京電力銀座支社本館などを所有、朝日新聞有楽町マリオン、大阪の中之島フェスティバルタワーなどを所有していて、実態は新聞発行というより不動産業者というような状態だ。このままゆっくりと新聞と宅配制度を殺して、正真正銘の不動産会社になるという手もある。彼らが、新聞事業を将来どうするつもりなのか、考えているのか、もしかして何も考えていないのか。

いずれにせよ、「民主主義を守るため」というような大言壮語、誇大妄想、事実上の嘘ではなく、「宅配制度の維持」が必要だと本音を述べたらまだ議論の余地があった。やはり我々の新聞社もザJAPANESEだったということだ。

参考

ポータブックが紡ぐ物語

キングジムが販売する「ポメラ」という商品がある。見た目は電子辞書のような形だが、キーボードを折りたたむことで、打キー時のやりやすさを保持できるサイズのキーボードを有する文字入力専用機だ。乾電池で動き、立ち上げ時間を考慮することなくテキストタイピングに特化したという点では評価できた。実際、ポメラシリーズは30万台を売り上げたという。

ポメラの後継

しばらく新製品の展開のアナウンスが無かったが、2015年末にポメラの後継機が登場するという話が出回った。そして、キングジムが「ポータブックXMC10」を発表した。ポメラではく、Windows10を搭載したノートPCであった。価格は9万円前後とのこと。スペックと価格が見合ってないという話であるが、そもそもデザインが剽窃だという話が出回った。インダストリアル・デザイナーの川崎和男氏がアップルコンピュータに向けてデザインした「MindTop」の持つキーボードの折りたたみ機構と正方形の設計がそっくりだ。

ポインティングデバイスも昔のTinkPadそのままだったりする。

ポータブックのデザインをまとめると

実際、川崎氏は憤慨を表明していたりする。

物語で売るやりかた

また、ポータブックでは象徴的なこともあった。

製品発表当日の夜、ワールドビジネスサテライトに製品開発者なるソニーから転職してきたというエンジニアが登場する。彼の発想が製品化の原点であるという物語が流布される。セールストークなのだろうが、ポメラの時も左遷社員のアイデアから製品化という物語がうまくいったので、成功体験を再びというところか。

UPQでもそうなのだが、物語を紡がないと売れないのだろうか?機能や価格その他の差別化だけでは苦しいのだろうが、このような安易な物語で売れるようになるのだろうか?

どうせ物語をつくるなら、川崎氏に喧嘩をふっかけて法廷バトルでもして、炎上マーケティングを全面展開してくれたほうが面白いのだが。残念ながら、この件についてキングジムは「ポータブックのデザインに関して本製品は特許・意匠・著作権上問題ないこと確認済みであり、川崎氏がデザインされたMindTopを模倣したものではない」との見解をだしている。とても残念だ。

まとめ

  • ポメラを進化させるのではなく安易にノートPC化させた
  • キングジムは、製品化スピードを口実として、製品に対する自らの考えの浅さを露呈した
  • このような安易な製品を物語で誤魔化して売ることがキングジムの社是

剽窃の有無はこれ以上追求しないが、キングジムの製品に対する考え方の浅さには驚いた。レノボのプロジェクター内蔵タブレットの方が、まだチャレンジしている。

参考

日韓合意の行きつく先

年末、突然とも思える日韓の外相会談で、いわゆる従軍慰安婦問題の妥結交渉が報じられている。ネット言論を自認する方々が発狂し、その他の識者がほとんどスルーする中で、以下のような言説を見つけた。

慰安婦新財団、朝日と福島みずほ氏が自発的出資を

とくに、読むべき内容はない。石井氏という売文業者が国内の自虐史観中韓に不当に貶められていると考えている人々の感情を慰安して小銭を稼ぐために書かれた内容だ。実際、

私たち日本人がなぜ巻きこまれるのか

と問題提起をしつつも、それに対する分析も推察も行われていない。巻き込まれるのは嫌だという感情の発露だけ。本人も「筆者も感情的に反応することをお許しいただきたい」と認めているように、極めて次元の低い内容だ。ただ、内容は話にならないが、国内の自虐史観中韓に貶められているという人たちを切ってまで安倍政権が動いたことは考えなければならないだろう。韓国側も合意には強い反発がでているというニュースが流れている。

この時期に特に解決を急ぐ緊急性のない(重要ではある)、しかも日本がわざわざ出向いて、しかも歩み寄る形で交渉を行った背景には何があるのだろう。今回の件でアメリカの意思が強く働いたということは言える。今回の合意について、アメリカのケリー国務長官とライス大統領補佐官が2015年28日に相次いで歓迎する声明を出し、合意を高く評価したとニュースでは伝えられている。アメリカの狙いは以下のようなものだろうと愚考する。

  • オバマ政権が次の政権に移る前に極東でのアメリカの立ち位置(特にアメリカ軍の展開)を明確化
  • 韓国を自陣営の一員であることを再確認させ、中国への接近を自重させる
  • 韓国をTHAADに参加させて、日米韓の枠組みで極東の安全保障を担保
  • 一方で、THAADの導入の引き換えに極東の米軍の削減を行い、駐留コストを削る

アメリカの方向性は、地味に小出しなりながら、明確化していくだろう。2015年10月に、オバマ大統領と朴槿恵大統領の首脳会談で、。当面日本はそれに対して盲目的に追従するだけであろうが、一つ気になる点がある。それは、ここで取り上げた日本を取り戻そうと考えている人達も追従していくのかという点だ。

国内の自虐史観中韓に不当に貶められていると考えている人々が、「安倍政権への批判を強める」こともせず、「アメリカ頼みからの脱却」を主張することなく「慰安婦新財団、朝日と福島みずほ氏が自発的出資を」のタイトルに象徴されるように左への攻撃でお茶を濁そうとする。いつでもそうなる。まさか、とは思うが、「次の大統領選挙で共和党が勝利するまでの我慢だ」とでも考えているのだろうか。

このような鬱屈したエネルギーが、アメリカに向かう日は来るのか。

社労士炎上ブログのビジネスモデル

中小企業に助言を行う立場の社会保険労務士が、会社からの相談に答える形で「社員をうつ病に罹患させて退職する方法」というブログを2015年11月24日に公開し、すぐさま炎上する騒ぎとなった。

現在、ブログは閉鎖されているため、読むことはできない。が、そこはデジタルの大海に一度出されたものは、半永久的に漂うことになる。中身を類推すると、「辞めさせたい社員に対しては、就業規則の網をかける」「これに違反したとして徹底的に反省文を書かせ続ける」「規則違反を根拠に降格減給を実施する」等々の合法的パワハラで対処せよというものだった。最後の一文には、以下のようなことまで書いてあったようだ。

「モンスター社員に精神的打撃与えることが楽しくなりますよ」

12月19日の毎日新聞で、過労死家族の会などが、厚生労働省監督責任を果たすよう求めたと報道。また会のメンバーの「ブログの内容は殺人を勧めるようなもの」いうコメントを掲載した。

Amazonで検索すると、この社労士の著書が20冊以上ピックアップされてくる(共著もある)。氏の本には「首切り」「賃下げ」「正しい解雇」とか、どぎついワードがタイトルに並んでいる。通常のタイトルもあるが、煽ったタイトルが付けられた書籍の出版年を見てみると、2002年から2008年ごろである。小泉改革の頃と不思議と一致する。

話を戻す。Amazonのレビューを見ると、経営者や人事担当者の評価が高いことがうかがえる。彼らが、使えない社員を追い出したいとなるのは、(それが正しいかどうかは別として)自然な成り行きだ。社労士の本来の目的は労務管理を通じた労働環境の向上にある。しかし、諸刃の剣で、制度の穴を見極め、労働者を体よく追い出すノウハウを持っているということにもなる。この一件によって知名度がワンステージ上がった。炎上であったとしても、だ。むしろ仕事の依頼は増えるかもしれない。

ただ、やりすぎたという点はあるだろう。社労士として事実上資格停止に追い込まれるとすれば、だ。書籍として出ているものを少し読んだかぎりでは、ここまで自己主張をオーバーヒートさせる内容はなかった。ブログというのは、編集者の付く著書と違い、誰からも事前に査読されることはない。そのため、情報が正確である必要もないし、事実をねじ曲げてもいいし、他人の文章の引用に気を使う必要もあまりない。自分が基準だからだ。

以前にも引用したが、再び引用する。詩人の荒川洋治はブログを書くことについて以下のように述べていた。

 ブログという自己表現は危険である。ブログは、人に見られている、人に読まれているということを前提に書いている。ブログは自分のことをどんどん書ける。どんどん書ける、たくさんの言葉を使っているということは、逆に「自分が無い」という状態でもある。「自分はあるんだ」「いま、自分のことを書いている」と書き手は思っているかもしれないが、実は希薄だったりする。自分が無いからどんどん書けるといえる。

ブログを書くという行為は、本質的に危ういことなのだ。

共和党はもう大統領選挙に勝てないかもしれないという話

アメリカ大統領選挙の予備選で、ドナルド・トランプ氏が注目を浴びている。前回の選挙があまり話題にならなかったなと思っていたら、「メキシコ移民を強制送還」とかいう人物にわざと脚光を浴びせることで、選挙を盛り上げようとしているのかと邪推をしたくなる状況だ。トランプ氏が炎上発言するほど、排他的な高齢で低学歴の白人の支持を集める状況になる。ほとんどジョークとしか言えない状況だが、どうやらこの状況は、アメリカの大きな地殻変動が起きていることの一つの現れのようだ。

2015年2月にある書籍がアメリカで発刊され、話題となった。そのタイトルは、「2016 and Beyond: How Republicans Can Elect a President in the New America」。日本語訳にすると「2016年以後、どうすれば共和党は新しいアメリカでの大統領選挙に勝つことができるか」とでもなるだろう。逆に言えば「もう、現状を変えない限り共和党はアメリカ大統領選挙で勝てない」という内容だ。しかもこの本を書いたのは当の共和党のコンサルタントであるNorth Star Opinion Researchの研究員だということだ。

アメリカの国勢調査によれば、現在白人系はアメリカ全人口の62%を占めるが、2060年には44%まで減る。一方でヒスパニック系は2060年には現在の倍の30%まで増えると予想されている。1976年に全有権者のうち白人系は88%を占めていたが、2012年は72%まで低下、2016年には69%にまで落ちる計算になる。「であれば、非白人の75%を獲得するだけで民主党大統領選挙に勝てる」と主張する。

一方、共和党最後の大統領だったジョージ・W・ブッシュは、スペイン語で演説も行うなど、非白人系の票の取り込みを図った。それでも非白人系の26%の票しか獲得できなかった(それでもこれまでの共和党の大統領候補で最大)。

2015年11月の世論調査で、トランプ氏についで支持率2位のベン・カーソン上院議員はアフリカ系の子孫。3位のマルコ・アントニオ・ルビオ上院議員はキューバ移民の子。4位のジェフ・ブッシュ元フロリダ州知事も妻がメキシコ人で、カトリックに改宗し、スペイン語も話す。

ところがこういう路線は、共和党支持者の排他的な「超保守の」白人の支持を集めにくい。トランプ氏は最近でも「イスラム教徒の米国入国禁止」を言い出して、強い批判を浴びた。

トランプ氏がなぜ発言を先鋭化できるのかといえば、自分の金だけで選挙ができるから。他の候補者は支持団体から幅広く寄付を募らなければならないため、どうしても総花的な話をしなければならなくなる。

さらにトランプ氏は、共和党の候補を降り、第三の候補として大統領選にでることも選択肢にあるはずだ。共和党としては、トランプ氏が第三の候補として立候補されてしまえば、共和党に集まるはずの票が分裂してしまうため、さらに大統領選挙は難しいものとなる。トランプ氏がマジで共和党候補になる可能性は、想像以上に高いのかもしれない。

出版不況の活路は右旋回なのか

COURRIER JAPONの2016年1月号、成毛真の連載コラム「国連は大丈夫か」が掲載されいた。内容は、国連を巡るいざこざについて中韓を茶化した内容だ。そして注目はユネスコが世界記憶遺産に南京事件に関する文書を入れたことに触れ、ユネスコ自ら存在意義を否定することだと書いている。

ふむ。

博識で知られる氏は、「シベリア抑留に関する文書」を日本が世界記憶遺産に入れて、ロシアから猛抗議を受けていることも知っているはずだ。知っていて、このような片手落ちのコラムを書く行為をどういうように理解すべきか。書籍の分類からして対象読者に媚を売ったといわけではないだろう。表記は抑えられているが、中韓を揶揄したい本音が透けたと見るべきか。

いまさら書くことでもないが、嫌韓や嫌中国の書籍は売れるらしい。ネトウヨなるものは、実は比較的高学歴で収入の高い層がコアだという話も聞く。想像以上にネトウヨ化というのは深刻なのかもしれない。