無知と無能の間に

無知無能者、固人之所不免也

青年海外協力隊、隊員の生態〜その9〜スキルはあるのか

事業仕分けでの議論

2009年、行政刷新会議ワーキングチーム「事業仕分け」第2WGで、協力隊は事業仕分けのまな板の上にのせられた。

○菊田衆議院議員 つまり、いろいろ言われているのは、相手国とのニーズが合わなかったり、自分が何をしたいかわからない、自分探しの旅に行く、みたいな感覚で行っていられるというようなケースも多々 あるわけであります。そういったことも含めてお答えをいただきたい。

(中略)

○尾立参議院議員 関連して、私も広尾(社団法人協力隊を育てる会)の方に行かせていただいて、OB、OGの方々とお話をさせていただきました。大変な御苦労をされたと聞いておりますが、現在、毎年1,300 人送り出されているということで、2年になると 2,600 人になるんですけれども、この方々の属性、これまで現役で働いていらっしゃって行かれる方、退職されて行かれる方、無職の方、こ の割合を教えていただきたい

(中略)

○尾立参議院議員 内訳を。会社を休んで行っているとか、辞めて行ったとか、そもそも無職とか、学生卒業して行ったとか。

○説明者(JICA) まず現職参加の割合は 15.9%、これはジュニアの協力隊の場合でございます。シニアになりますと 11%という数字になります。それから、退職して参加したという方ですけれども、ジュニアの協力隊の場合は 33.9%で、シニアボランティアの方は 9.9%。それから、無職でございますけれども、ジュニアの協力隊は 50.2%、それからシニアのボランティアは 79.1%ということです。

○尾立参議院議員 それと、ジュニアは毎年幾らでした。送り出すのは。

○説明者(JICA) 延べで、今、申し上げましたように 3,000 人。

○尾立参議院議員 一年ごとに、新規で。

○説明者(JICA) 新規では 1,300、1,400 人。

○尾立参議院議員 やはりその数字ですね。

○説明者(JICA) 新規はそうです。

○尾立参議院議員 その50%が無職だということでいいんですね。

○説明者(JICA) おっしゃるとおりです。

参加した隊員の半数が、応募前無職、だということを、あっさりJICAが認めている。重要な点は、「退職して参加」は別である点だ。ただ、この数字はリーマン・ショックの後という景気状態だったということは考慮すべきだろう。

さらに引用を続ける。

○市川評価者 先ほどこれまで無職でおられた方が50.2%おられたというお話でしたね。そうすると1,350 人ぐらいですから、670人の方は、それまでとりあえずは無職でおられた。勿論、無職の方の中にはそれなりのスキルの方もおられると思うんですが、ただ普通に考えると、国費 200 億円全部ではないにしても、これは日本の政府が税金を使って海外に人を送り出している事業であると。

ところが、その中に明確に途上国の何らかの開発に役立つようなスキルをお持ちでない方がかなり含まれている可能性があるというのが、実は今の議論のポイントじゃないかと思うんですけれども、その点についてはどう思われますか。

○説明者(JICA) まず、私たちは単に協力したいからといった人たちをそのまま送り出すようなことはしておりません。

(中略)

○熊谷進行役 だから、そもそもに戻って、行って何をやっているかのグルーピングがあるわけじゃないですか。職種によって細かく分かれているでしょ。あと、50%の無職の方っていうのは、一体何の職種に応募されて行かれたんですか。無職だった方は。入口と出口が一緒なわけじゃな いですか。現地に行って、これをやっているからこういう職種があるわけでしょ。

○説明者(JICA) 今、手に職をお持ちでなかった方が集中している職種は2つございます。1つは、村落開発です。農村に入っていろんなエクステンションサービスの手伝いをするというのが一つでございます。それからもう一つは、日本語を教えるといいましょうか、語学の部分も多いです。

無職のために「村落開発」と「日本語を教える」という職種が用意されていることを、JICAは認めている。

それにしても、JICAの「他人ごと」を貫く姿勢はどこから来るものなのだろうか。

応募者推移と新卒求人倍率

さて、「事業仕分け」で明らかになったのは、協力隊の応募者の半数は「無職」。ということは、一つの仮説を示してみよう。「協力隊の応募者数と求人倍率は相反する関係がある」ということだ。以下に、参考から引っ張ってきたデータを示す。ただし、大卒は年度であり、前年の協力隊への応募者で同じ行にして比較している

協力隊への応募者数 大学新卒有効求人倍率(全業種)
2007年 3969 2.14
2008年 3877 2.14
2009年 4752 1.62
2010年 4060 1.28
2011年 2970 1.23
2012年 2674 1.27
2013年 3118 1.28

2011年は東日本大震災があったので、ここでは協力隊への応募も減っている。ただその前まで、仮説で示した推論が成り立ちそうだ。ただこれだけでは、当然、有意な相関関係があるとは、言えない。悪意を持って統計テクニックを駆使すればそのように見えるグラフを作ることはできそうではある。

ぜひ開発経済学を学んでいる大学院生は、データを集めて協力隊と求人倍率の関係から見えるものについて、批判に耐えうる論文を書いて欲しい。

まとめ

  • 能力が足りなくても、協力隊になれるし、途上国に送り込まれる
  • 技術補完研修でスキルアップできる(というJICAの言い訳)
  • 派遣された隊員の半数が無職(応募者ではない)
  • 要するに協力隊(とシニアボランティア)は、若年層(と初老)のセーフティーネット生活保護、失業保険と同種のもの)