無知と無能の間に

無知無能者、固人之所不免也

政治の道具としての青年海外協力隊〜その1〜JICAの組織目的

さてここまで「協力隊員はボランティア体験を消費する動物化した消費者」であり「JICAはそれを積極的に支援している」と仮説をたてた。ここで取り残したものがある。それはJICAが青年海外協力隊事業を運営する目的だ。

協力隊事業の目的

JICAのビジョンは以下のものだ。

  1. グローバル化に伴う課題への対応
  2. 公正な成長と貧困削減
  3. ガバナンスの改善
  4. 人間の安全保障の実現

JICAは協力隊事業に3つの目的を挙げているが「開発途上国の経済的・社会的発展への貢献」を強調している。当たり前といえば当たり前で、「JICAのビジョン」と直接リンクしているのはこれだけだからだ。

JICAの前身

JICAのWEBサイトには「JICAの沿革」には、日本海外協会連合会のことは触れられておらず、海外移住事業に関しても「海外移住事業団の設立」についてわずかに書かれているのみである。あくまで、JICAは、その当初から高度経済成長を背景に要求が高まった国際協力を実施していくための機関のように書かれている。そして「1974(昭和49)年に、海外技術協力事業団と海外移住事業団と(財)海外農業開発財団の業務、(財)海外貿易開発協会の業務の一部を統合し、あらたに国際協力事業団を設立することが決定されました」としれっと書かれている。

「海外移住事業団」の前身は「日本海外協会連合会」という組織だ。余剰な労働力を 国策としてドミニカやボリビアに棄民するための組織だった。

要するに日本の経済発展に合わせてこの組織の連中は「国民を捨てる事業」から「途上国を支援するために国民に体験させる事業」に、換骨奪胎したのだ。こっそりと180度転換し、過去をロンダリングしたのがJICAという組織だ。これぞ計算高い官僚組織の高等テクニックというものだ。

JICAの、過剰に自己言及的態度というのは、こういう出自が関与しているのかもしれない。

隊員のブログに残こされたJICAのスタンス

本人はまったく悪気はないのだろうが、その素直さがJICAのスタンスをよく表していた。またも、ボリビアの協力隊員のブログから引用

JICAの隊員向け雑誌「クロスロード9月号」にわたしの記事が載りました。

(中略)

1時間半も電話でインタビューをしてくれて、記事を書いてくださったライターさんのことを考えると、 あんまり、大きな声では言えないのですが、 「んー。わたしのことじゃないみたい・・」

(中略)

基本、ネガティブで、自己肯定感の薄い(苦笑)わたしが、延々話したうまくいかなかった話から、 ちょっぴりのうまくいったっぽい箇所が、 うま~く、膨らましてありました。

さすが、JICAの雑誌。

さすが、仕事として書いているだけのことある。

(中略)

ボリビアで、クロスロードをかなりじっくり読んで、

「なあんで、わたしは、こういう風に、ことが運ばないんだろ?」と、時にはメソメソして、

調整員さんに、

「うまくいっている一握りのケースが載るの!比べてどうする!」って突っ込まれていたのにな。

載っちゃったよ。えへ。うまくいってたかのように。

本人に暴露の意図はない。しかし、いやだからこそ、ある事実があっさりと表明されている。隊員の活動を「本人の見立て」とは関係なしに「成功体験として綴られて広報誌に掲載」されているということだ。

このエピソードを「マスコミは嘘を付いている!」、「捏造だ」等、ネトウヨのような幼稚な方向で議論をするつもりはない。ただ、このブログに書かれている通り「活動がうまく行ったような演出を施す」という編集方針は、JICAの意図をよく表している。

組織目標

これまでみたように、JICAや調整員や他の隊員に文句をつける隊員のブログは、多い。しかし、そのブログで書かれていることのほとんどは、本質的な批判になっていない。協力隊員がブログで行っているJICAなどへの数々の批判は、客が「サービスが悪い」と言って店にクレームをつけるのと同じ論理である。その批判は「協力隊事業」が存在する前提条件の範囲内だからだ。

すなわち、JICAと協力隊員は、同床異夢を見ている。「組織防衛」と「自己実現」の異なる目的のために、「協力隊事業を維持する」という同じ目標を持つ、共犯関係にあると言える。