無知と無能の間に

無知無能者、固人之所不免也

レスラー・トランプ

ドナルド・トランプが正式に共和党の大統領候補に指名された。泡沫候補と目され、共和党内から激しいバッシングを受けながらも、ここまでやってきてしまった・・・というところか。

さて、日本のマスコミのトランプ評は、総じて「実業家」「ホテル王」「毒舌家」「反ウォール街や移民排斥感情をうまく取り込んだ」というようなものだ。要するに超大国から転落しつつあるアメリカで、不遇を囲っている中の下あたりにいる白人男性の受けが良いキャッチフレーズを放言することでここまで勝ち進んできたという分析だ。

町山智浩氏が出演しているラジオを聞いて、なるほどと思った点がある。それは「プロレスラー」として側面だ。そして、日本のマスコミは総じてスルーしている点も注目だ。

ドナルド・トランプは、WWE(World Wrestling Entertainment以前はWWFとよばれていた)アメリカのプロレス団体とつながりがある。WWFは、ハルクホーガンが所属していたということで思い出す人もいるだろう。そして日本人には信じられないことだが、このプロレス団体はニューヨーク証券取引所NASDAQに上場している。このあたりがアメリカの資本主義の業というものか。

さて、トランプはこのWWEのオーナーであったことがある。2007年にWWEのCEO ビンス・マクマホンとリングの上で戦って勝利したからだ。タイトルマッチの名前は「バトル・オブ・ザ・ビリオネアーズ」。訳すると「億万長者の決戦」か。その時の動画がYoutubeに上がっている。

会場に100ドル札を降らせ、トランプもマクマホンも髪型があやしい(要するにカツラ疑惑)ので、負けた方がバリカンで坊主になるというものであった(結果はWikipediaに記事があるので、気になるひとはそちらを参考に)。プロレスなので、いわゆる「お約束」といったものだ。実際、トランプのWWEオーナーの権利はすぐにビンス・マクマホンにもどっている。どこまでネタでどこまで本当なのか、何を信じて良いものやらわからなくなるが。

さて重要なのは、町山氏も指摘しているように、トランプが「どうすれば大衆受けするか?」という命題に対して、このWWEでの体験が大きな影響を与えたというところだろう。プロレスの観客は、中の下、有り体にいえばウダツの上がらない落ち目の白人男性である。共和党の党員集会も同様だ。要するにトランプはプロレスで学んだリングトークで、悪役レスラーをなじるのと同じ方法で共和党の主流派候補を攻撃し、罵倒し、大統領候補の座を手にいれたということだ。

さて、一方の民主党ヒラリー・クリントンに大統領候補が決まった。こちらも嫌われ者だが、トランプよりマシということで、本命だろう。トランプに勝機があるとすれば、テレビ討論会でプロレスラーの煽り絶叫で挑発し、クリントンから「感情的な態度」を引き出したときだろう。そのとき「あんなヒステリーに軍の最高司令官は務まらない」「核兵器のボタンを任せられるのか?」と畳み掛けることができたら・・・トランプ大統領がありえるかもしれない。

お役所ファンタジー

前回のエントリーの通り、シンゴジラを見た。その社会性ゆえに、映画以外のジャンルの批評がよく目に着く。

そのなかで、辻田 真佐憲氏が寄せた、『シン・ゴジラ』に覚えた“違和感”の正体〜繰り返し発露する日本人の「儚い願望」と題されたコラムがあった。辻田氏は、この中で政治家と官僚が覚醒することなどありえないと書く。

官僚機構という巨大な精密装置は、その構成要素の歯車がきちっとハマると、大きな成果を生み出す。その一方で、巨大で精密であるがゆえに、逸脱は許されず、従って不測の事態にあってもなお修正がきかない。映画の中では組織を逸脱した人々が集められたが、結局は組織化されてゴールに向かってまっしぐらに突き進む姿があった。逸脱者であっても、逃げず、さぼらず、イケイケドンドンになってしまうというのは、やはり「お役所ファンタジー」とでも呼ぶべきものなのかもしれない。

ある霞ヶ関の官僚はシンゴジラを見て「コピー機の部分が一番リアリティがあって興奮した」と語ったという。どのキャリア官僚にも駆け出し時代には、資料のコピーを大量に取る役回りを経験し、どこの場所に分速何枚のコピー機があるか頭に叩きこみ、徹夜して何万枚のコピーをとったという武勇伝をもっているものなのだそうだ。

映画を見て、コピー機という矮小事象に目が行くというこのエピソードは、辻田氏の指摘するところの官僚像とオーバーラップする。役人というのはそういうものらしい。

シンゴジラが描かなかったもの

シンゴジラを見てきた。以下、ネタバレを含む。

 描かれていたもの

2011年3月11日から始まった、あの一連の出来事を暗喩していた。

謎の敵が攻め込んでくるのを、組織から弾かれたが一芸に秀でる寄せ集め集団で撃退するというモチーフは、「七人の侍」のオマージュともみえる。そして映画オタクでもある庵野監督が敬愛してやまない岡本喜八をシンゴジラを作り出した謎の博士として写真登場までさせている。そして岡本喜八の沖縄決戦のように、重大な出来事をテンポよく切り替え、テロップを多用、ゴジラ第一作のエッセンスもうまく取り入れていた。

東日本大震災を映像作品として再構成する・・・というより東日本大震災で実現できなかった大都市東京を破壊してみせるという庵野の野心はここに達せられた。

そして、もうひとつ。不測の事態に対して、福島原発事故でもあったように、右往左往する政府上層部の姿。会議ばかりで決断力に欠ける政治家、省庁間の縦割りに泥縛する上級官僚、「巨大不明生物特設災害対策本部」とかいうネーミング。核ミサイルを東京に打ち込んで始末しようとするアメリカからの最後通牒をつきつけられ、組織では使い物にならない役所内のオタク連中をあつめて、ゴジラ冷温停止に成功する。オタクファンタジーでもある。

描かれなかったもの

なにが良かったかといって、この手の映画にありがちな「恋愛」「家族愛」「人間愛」というような、チープな物語がバッサリと切り捨てられていたことだ。これによって、オタクファンタジーでありながら、シン・ゴジラは社会性を持つ作品になった。

そしてもうひとつ描かれなかったもの。それは東日本大震災での原発事故でヘドロのように足元にあり、原発事故を霧の中に押しとどめようとしていたあの組織体だ。東京電力東京電力のトップから足の先までを組織したサラリーマン集合体、決して積極的な行動はせず、互いの足を引っ張り合い、責任をなすり合い、評論家を気取るあの社畜とも比喩される不可解の群体が描かれていなかった。

端から東京電力(だけでなく日本のサラリーマン群体)を入れるつもりはなかったのかもしれない。官僚組織はでてきていたし、足も引っ張っていたが、あれでは足らない。もちろんそんなものを入れればストーリーは複雑化してつまらなくなっただろう。でも、あれを描いたものが見てみたかった。

Magic Leapの目論見

Oculus Liftが製品版を発表し、SonyはPSVRを、台湾のHTCがViveをそれぞれ出荷を始める。今年こそは、今度こそは、VRの立ち上げ元年になるのか、それともやはり3DTVと同じ道をたどるのか。後者の方になりそうな気もするが、問題はコンテンツがでそろうかどうかというところだろう。

ところで、VRというよりARのサービスを開発しているというMagic Leapというベンチャー企業を知った。GoogleQualcommなどが1000億円以上の投資を行っている。そしてその投資の額のわりに、ほとんど情報がでてこない、謎の企業だ。

Magic Leap

そのMagic Leapについて、Slide Shareで面白い予想を見つけた。

*Magic Leap製品予想(Slide Share)

この予想が当たっていると仮定すると、VRというよりARグラスになるようだ。MSのHololensに近い。Hololensよりもしかしたらすさまじいインパクトを残すことになるかもしれない。

トランプ氏の経済政策

トランプ氏の予備選挙勝利のニュースを聞いて、「まさか」と受け止めつつも、「もしかして」が頭をよぎる今日このごろ、皆さんどうお過ごしでしょうか。

トランプ氏の発言は移民帰れやメキシコに壁を作ろうなどの発言ばかりで、いったいどういう経済政策を取ろうとしているのか、少し調べてみた。簡単にまとめると以下の通りだ。

  • 税制を簡素化し、所得税を7段階から3段階に
  • 全階層に対する所得減税を行う。40%近い最高税率を25%に下げる
  • 低所得の家計や個人には課税しない
  • 法人税率を35%から15%に引き下げる

クルーズ候補を金持ちの代弁者と攻撃しているが、高所得者への優遇を隠して、はばからない。それにもまして、アメリカの財政を一気に壊すような政策で、仮にトランプ氏が主張している日本を含む在外米軍を全部撤退してもまだ財源が足りない規模だ。

万が一、トランプ氏に大統領につけば、現実路線に舵を切るしかない(と希望的観測で思う)。しかし、そんなことをすれば一気に支持率が下がるはずで、政権が青島幸男都政化しかねない。古い例えですまない。

それにつけても、アメリカのトランプ支持者たちは、本当にトランプのマニフェストを読んでいるのだろうか。読んでいないのだろうね。

基地外の和解

※タイトルに悪意はありません。あしからず。

沖縄県普天間基地移設問題で辺野古での埋め立てについて、政府が和解に応じて、沖縄県との交渉テーブルにつくことになった。

この合意について、沖縄の基地問題参議院選挙の争点にならないように、一時的に議論を棚上げしたという意図があると巷ではいわれている。

それ加えてに、アメリカ大統領選挙の結果次第で、辺野古移転が白紙に戻る可能性がでてきたという判断もあるのかもしれない。トランプ氏は沖縄からの撤退どころか、在日米軍の完全撤退(または100%の基地負担)を言い出している。クリントン氏は現路線の継承を言っているが、在日米軍を含めて海外に展開している米軍の配置を見直すことは避けられないだろう。

いずれにせよ、安倍政権は賢い。安倍氏が賢いかどうかは疑問だが、政権としては賢い。ブレーンが知恵をつけたのだろうが、失敗を避ける極めて優秀な官僚的な判断だ。安倍政権を倒すには、そうとうな策士でなければ実現できそうにないことは、確かだろう。

ババを引くのは誰だ

日本時間で3月16日に、2016年アメリカ大統領選挙予備選挙の「ミニ・スーパー・チューズデー」の結果がでた。

共和党は、トランプ氏がフロリダ州を取って、地元だったルビオ氏が撤退を表明した。また一歩指名獲得に近づいた。民主党の方は、サンダース氏が後退、クリントン氏が指名に大きく近づいた。

共和党の主流派は総力を上げてトランプ氏を批判しているが、効果が薄いばかりか、逆にトランプ氏を利する結果になっている。もともと、キューバ移民であるルビオ氏を候補者にして、ヒスパニック系を取り込み政権奪還を目指すつもりだったのだろうが、もろくも崩れ去った。

共和党は最後の全米党大会まで、トランプ氏に過半数を取らせないようにし、最後の最後で党大会の決選投票で別の人物を候補者としてひっくり返す算段を考えているというニュースも流れている。主流派が担ぎだそうとしているのはライアン下院議長だという。

それがダメでも、第三の候補者を立てて、意地でもトランプ氏が大統領の座につくのを防ごうということも以前、噂にあった。共和党がトランプ氏、民主党がサンダース氏が候補者となった場合は、前ニューヨーク市長のブルームバーグ氏が第三の候補として立候補するかもしれないということを匂わせた発言もあった。

そもそもの要因として、アメリカ大統領選挙を闘いぬくには多額の金がいる。いかに理想に満ちていても、選挙資金を調達できなければ、当選できない。資金の提供者はウォール街だったり実業家だったりするわけで、金持ちに配慮した政策を示さなければならない。これは伝統的に小さな政府を志向しているという共和党の傾向だ。その一方で、格差が広がり、特に下層に属する白人の不満は大きいという。

共和党がトランプ下ろしをすすめるほど、共和党を伝統的に支持してきた下層の白人たちが反発する。ジレンマだ。もしかしたら、共和党は今回の選挙で空中分解してしまうのかもしれない。